近年、日本経済においてインバウンド消費の存在感は飛躍的に増しています。

観光庁のデータからも、その影響力は明らかです。

訪日外国人旅行消費額は、

  • 2019年:4兆8,135億円
  • 2023年:5兆3,065億円
  • 2024年:8兆1,257億円

へと急増。

この驚異的な伸びは、インバウンドがもはや日本経済にとって無視できない、計り知れない影響力を持つ存在であることを示しています。

メディアでも連日報じられるように、全国各地でインバウンドによる観光客増加が確認されており、日本経済の活性化に大きく貢献。

伏見稲荷大社

九州でも、台湾や韓国をはじめとするアジアからの観光客が増加し、その消費動向は地域経済の活性化に不可欠な要素となっています。

九州全体におけるインバウンド規模も

  • 2023年:318万人
  • 2024年:500万人

と過去最高(2018年)の511万人を超える勢いです。

2025年は1月~4月は175万人(速報値含む)と、過去最高を突破する可能性も十分あります。

情報引用元:九州運輸局

そんなインバウンドにおいて特に注目されていることが「体験」であり、ものづくりをどのように繋げていくのか考えていきます。

トレンドはコト消費だが、データ上ではモノ消費も活発

その場でしか得られない感動や経験(つまりコト消費)が、現代のインバウンド消費の大きなトレンドであることは間違いありません。

約2年前(インバウンド増加前)に海外の旅行代理店の方々に日本を案内する機会があり、観光地を訪問しましたが、消費額の大半はコト消費。

例えば、鬼怒川の川遊びや三島スカイフォーク等様々なアクティビティにはガンガンお金を使う一方、モノを購入することはあまりありませんでした。

三島スカイウォークを散策中

観光庁のデータでもコト消費の割合が増加傾向にあります。

以下は観光庁が公表しているデータを円グラフにしたものです。

買物代は34.7%から29.5%に減少しております。

2019年費用別構成比

2024年費用別構成比

減少傾向にありますが、まだ3割を占めているのも事実。

訪日客は一人あたり20万円以上消費しているため、モノに対する消費パワーはまだまだ巨大です。

特に中国や台湾などアジア圏からの来日者はモノを消費する傾向にあります。

以下の通り全体と比較しますとモノに対する需要が高い状況です。

中国(2024年)

台湾(2024年)


「コト消費」の先にある「モノ消費」の可能性

インバウンドが求める「体験」は、一見すると形に残らないように思えるかもしれません。

しかし、その感動や記憶は、旅の終わりとともに薄れていくものではなく、「形」として持ち帰ることで、さらに深く刻まれ、次なる消費へと繋がる可能性を秘めています。

食の体験

旬の食材を味わう、郷土料理を作る、地酒を試飲する -これらは五感に訴える素晴らしい体験です。しかし、その感動を自宅でも再現できる、あるいは友人や家族にシェアできる「モノ」があればどうでしょうか?

例えば、宮崎牛の美味しさに感動した観光客が、自宅で同じ味を再現できる特別な調味料や、地元の精肉店が加工したレトルト品(海外持ち出し可能な形態で)、あるいは高級な調理器具を土産として購入するかもしれません。

日向夏を味わった後、その香りを閉じ込めたアロマオイルや、日向夏をモチーフにしたデザイン雑貨に手が伸びるかもしれません。

文化・自然体験

高千穂峡
  • 高千穂峡の神秘的なボート下り
  • 御朱印集め
  • 伝統工芸品作り

これらもまた、日本でしか味わえない貴重な体験です。

御朱印は「コト消費」の代表例ですが、その御朱印を保管する御朱印帳は、旅の記憶を大切に「モノ」として残す役割を果たします。

他にも伝統工芸体験で作った品だけでなく、その素材(糸や染料)や、自宅で試せる関連キットを販売すれば、体験の延長線上にある消費を創出する可能性があります。

体験を補完し、価値を高める「ものづくり」の視点

インバウンド消費を意識した「ものづくり」とは、単に訪日客が欲しがる商品を作るだけでなく、彼らが経験した「コト」の価値を最大化し、旅の満足度を永続させるための「モノ」を創造することが重要だと考えます。

着物・浴衣着付け体験と写真・関連グッズ

訪日外国人観光客は、日本の伝統文化を肌で感じたいという強いニーズを抱いており、着物や浴衣の着付け体験は、その要望に直接応える魅力的なコンテンツです 。

体験後には、美しい和装で歴史的な街並みを散策し、SNS映えする写真や動画を撮影できることが大きな魅力となります。これは単なる体験に留まらず、美しい「モノ」としての着物姿を写真という形で持ち帰ることで、旅の記憶を鮮明に定着させます 。

伏見稲荷大社

多くの着物レンタル店では、着付けサービスに加え、プロのカメラマンによる撮影プランを提供することで、高品質な「モノ」としての写真を提供しています。

また、和装に合わせた扇子、巾着、かんざしなどの小物販売も行い、体験の延長線上で「モノ消費」に繋がっているようです。   

インバウンド「ものづくり」の未来

日本には豊かな自然、多様な食文化やアクティビティなどが溢れています。

これらをインバウンドの「コト消費」と密接に結びつけ、その価値を最大限に引き出す「ものづくり」の視点を持つことは、地域経済に大きな波及効果をもたらします。

単に多くの観光客を誘致するだけでなく、彼らが日本で得た感動を「形」として持ち帰り、さらにそれが「再び日本を訪れたい」という想いや、周囲へのポジティブな口コミに繋がるような、循環型のインバウンド消費モデルを構築することが、持続可能な「ものづくり」に繋がると考えます。